コラム
修学旅行の「民泊」人気上昇中 −2
  1.民泊と民宿の区別が不明瞭
  2.各県の民泊受入認可の主な条件
  3.受入に対する各県の制度の事例
  修学旅行の「民泊」人気上昇中 −1

      1.沖縄県の修学旅行の実情
      2.修学旅行の背景
      3.全国的に広がりを見せる「民泊」人気
      4.なぜ民泊

    修学旅行の「民泊」人気上昇中 −3

      1.「薩摩半島自然学校」の現状
      2.民泊受入に当たって心配なこと
      3.目指すのは「第二の故郷」に

 1.民泊と民宿の区別が不明瞭

 ◇ 現在、修学旅行で農家民泊と表現して受入推進している各県区分
  
  a.旅館業法簡易宿業(民宿・ペンション営業)の許認可に関して農水
    省からグリーンツーリズム振興策の一環として、1994年6月に
    「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」
    が制定され、農林漁家に限り、営業許可の基準のハードルを大幅に
    緩和して、設備投資をほとんどすることなく民宿の営業許可が取得で
    きるようとなり、この法律に則して各県なりの制度を設け、農林漁家民
    宿として、営業許可を取得することを義務づけている。 

     青森県、岩手県、新潟県、福井県、和歌山県、島根県、鳥取県
     山口県、高知県、徳島県、愛媛県、長崎県、大分県、

    参考:農林水産省
    [農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法]
    (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H06/H06HO046.html

   b.規制緩和ながら、簡易宿業の認可と食事提供できる食品衛生法上
     の正式な認可を受けて、分類的には民宿に入る家庭にもかかわら
     ず、民泊人気に押され民宿と表記せず民泊と表記して受入をしてい
     る。
    
     長崎県松浦市

   c.正式な簡易宿業としての営業許可を取得せず、自治体を含めた、
     地元受入協議会を組織し、その組織に受入希望者を会員登録させ、
     更に年1回以上、衛生・防火消防講習会を受講することを義務づけ、
     学校関連者に限定して受入するとした受入指針に基づいて認可し
     ている。

      宮城県、秋田県、鹿児島県

   d.県の民泊に関する受入指針も発布されていないで、受入の方向性
     があいまいのまま、受入を黙認している



   と、いろいろな規制を設けているのは安心・安全・快適に利用したいとす
   る学校側の要望と、できるだけ投資をせずにありままの姿で受入をしたい
   という受入側の意向が交錯する中で、各都道府県なりの立場で方向性
   を打ち出されており、民宿と民泊の表現の区別が非常につきにくく、新聞
   記事でも記者自身の理解が乏しく、民宿なのに民泊と表現しているケー
   スもしばしば見受けられ、利用者に混乱を招く結果になっているのが現状
   です。

   民泊の魅力となぜ民泊なのかは前号で表記させていただいております
   が、「民泊」のイメージする魅力と響きは「民宿」のイメージを遙かに超え
   て、好感を持って支持されています。

    その結果が、a.の簡易宿業(民宿)の取得を義務づけている県でも受
   入要項にすら「農家民泊施設等認定制度(和歌山県)」「農山漁村民
   泊等の法整理(島根県)」などの表記が見られ、b.の松浦市の修学旅
   行受入窓口機関の社団法人まつうら党交流公社のホームページを見る
   と「民泊のご案内」となっています。

   受入家庭の皆さんと記念撮影
  2.各県の民泊受入認可の主な条件
 
    農林漁家民泊の範囲:対象は児童・生徒・引率者

   1) 地元市町村と農家などと設置した協議会に所属

   2) 所定の手続きで県の指定部署長又は協議会に申請登録した家庭

   3) 受入回数:1戸当たり年間3回程度(原則1回2泊以下)
     →宮城県07年「子ども農山漁村交流プロジェクト」公募時に撤廃

   4) 宿泊人数:1回の受入で1戸当たり5人以内
     →宮城県07年子ども「農山漁村交流プロジェクト」公募に伴って
      安全の確保ができる範囲に変更

   5) 食事提供の制限:生徒等の自炊又は農家等との共同調理のみ

   6) 宿泊料金としては受け取れない。
     体験料指導人件費・実費・指導料・料理の材料費等は認められる。

   7)年1回以上の食品衛生講習会、消防講習会に参加 


唐いも餅完成  家庭訪問 カレー作りの最中でした
 3.受入に対する各県の制度の事例
 
   (1)c.の事例:宮城県:(2003年11月)
     体験学習に伴う農林漁家への民泊の実施方針に基づく
     「農家等民泊の手引き」から一部を抜粋


http://www.pref.miyagi.jp/nosonshin/nosonsinkotaisaku/gt/index.html


   
1)農家等民泊とは

一般的には子供達を農林漁家(以下「農家等」という)の方たちの生
場に招きき入れ、ホテルや旅館では得られない、ありのままの農
家等の暮らしを、ありのままに体験させることを農家等民泊と言ってい
ますが、この
手引き書では、学校の校長先生が教育上必要と認めた
学校行事として行う農林漁業体験、農山漁村体験のため、子供達
と引率者が、農家等へ宿泊することに限定して「農家等民泊」として
います。

 また、この「農家等民泊」は後で述べる実施組織から協力依頼があ
ったものでなければならず、農家等1戸当たり年回3回程度で、1回当
たり2泊以下としています。(この回数・泊数制限は2007年に撤廃)

 農家等民泊では、子供達の安全・安心を考えた、気配りが必要に
なることは言うまでもありません。

   2)ホテルと旅館、民宿と「農家等民泊」はここが違います

 ホテルや旅館は宿泊させることを「業」としています。(営業行為)

 実は、農家等が体験学習に訪れた子供達から宿泊料をもらって、
何回も、泊める場合は「営業」と見なされ、ホテルや旅館などを営業
するように保健所の許可が必要となりますが、宮城県で定めた実施
方針では、「宿泊料に当たるお金をもらってはいけません」と言ってま
すから、この方針のとおりに民泊を行うことは「業」には当たらないことに
なります。

 つまり、農家等民泊は、旅館やホテルのような『営業』ではなく、農
林漁
業体験や農山漁村の暮らしを体験したい人のために、自分た
ちの生活の場を提供する、いわゆる「ボランティア的な取組み(指導
の対価以外は受け取らない)」なのです。

3)体験学習の定義

体験学習とは,学校教育法第1条に定める学校(以下「学校」とい
う。)の児童及び生徒が行う農林漁業に係る体験及び農山漁村で
の生活体験等で、学校長が教育上必要と認めるものをいう。

4)農家等民泊の定義

(1) 農家等民泊とは「1 体験学習の定義」に定める体験学習に伴
  
い、児童、生徒及びその引率者(以下「生徒等」という。)が農
  林
漁家(以下「農家等」という。)へ宿泊することをいう。

(2) 前記(1)に規定する農家等民泊は,「8 実施組織」でいう組織
  が
受入れした生徒等で、かつ、当該組織からの協力依頼による
  ものの
みとし、農家等が自ら実施するものはこれに含まないもの
  とする。

5)宿泊人数

  1回の農家等民泊において受け入れることのできる生徒等の人数は、
 安
全の確保ができる範囲内とする。

6)食事の提供の制限

  農家等民泊における生徒等の食事は,生徒等が自ら調理するもの又
は農家等と共同で調理するものとし、それ以外は食事の提供はしない
 も
のとする。

7)衛生の確保

  農家等は、受入れの実施に当たり,事前に検便等を実施するなど、衛
 生の確保に努めるものとする。

8)宿泊の安全確保

  (1) 農家等は、受入れの実施に当たり、事前に管轄の消防機関の指
   導を受けるものとし、受入れに使用する部分の延べ床面積等に応
   じ
て必要な消防用設備等を設置するものとする。また、受入れに
   使用
する面積等について変更があった場合については、再度管轄
   の消防
機関の指導を受けるものとする。

  (2) 宿泊に供することのできる部屋は、1階部分で外部に向けた窓が設
   
置されている部屋等、安全が十分に確保できる部屋に限るものとす
   
る。
   また,農家等は生徒等に対して避難口等の案内を事前に行う
もの
   とする。

9)指導の対価等の受取り

(1) 農家等は、生徒等の体験に対する指導をした場合は、その内容に
  
応じた対価を受け取ることができるものとし、その基準は別表に掲げ
  る
ところによる。

(2) 前記(1)に定める指導の対価は「8 実施組織」でいう組織が指導
  内容及び指導時間を考慮し定めるものとし、その金額は体験指導

  に係るもののみとする。

(3) 農家等は、前記(1),(2)に定めるものの他,「4 食事の提供の制限」
  に定める調理に用いる食材料等を提供した場合は、その実費を

  け取ることができる。

10)実施組織

(1) 受入れする市町村等は,農家等民泊を円滑に実施するための組
  
(以下「協議会」という)を設置するものとし、その機能は次のとお
  り
とする。

生徒等受入に伴う契約業務。
農家等民泊受入の日程等の調整。
受入農家等の指導。
体験指導の対価の額の設定。
その他農家等民泊の実施に係る業務。

(2) 協議会は、実施しようとする体験学習内容等について事前に学校
  
長と協議を行い、全ての農家等において生徒等の安全が確実に
  確
保できる場合のみ受入れするものとする。

11)協議会の構成員
   協議会の構成は,市町村等に委ねるものとする。

12)事故等の対応
   協議会は生徒等の受入れに当たり、あらかじめ学校長と協議し、体
   験
及び宿泊時等に係る安全対策等に関する事項について明確に
   してお
くとともに、傷害保険等へ加入するなど事故発生時の対応等
   に万全
を期すこと。

13)農家等の登録
   農家等民泊を実施する農家等は登録制とし、事前に協議会に届
   け
出るものとする。

14)研修の実施
   協議会は生徒等の安全と衛生の確保のため、登録農家等に対し
   年
1回以上の研修を実施するものとする。

5)その他
   この取扱いによるもののほか、農家等民泊の実施についての必要
   な事
項は協議会と関係機関とが協議して定めるものとする。

別表
   ◇ 指導の対価に含むことができるもの
     消耗品(体験の材料費)、人件費(体験指導に要する労賃)
     収穫農産物価格(収穫体験の場合)、体験指導の諸経費

  ◇ 指導の対価に含むことができないもの
     宿泊のための経費、生徒等の送迎のために要する経費


みかん園で野趣溢れるランチ お別れ懇親会用の料理作り

   (2)c.の事例:鹿児島県 農林振興課 (2009年3月9日施行)
    鹿児島県における農山漁村生活体験学習に係る取扱指針


    http://www.pref.kagoshima.jp/__filemst__/40445/eisei.pdf


  指針抜粋

     第2 定義

◇受入農家等:
  農林漁家のうち、市町村等を通じ体験学習を提供でき、体験を希
  望する者の受入れを行うものをいう。

◇ 体験学習 :
    学校の児童及び生徒並びに学校関係者を対象とする。

    (1) 市町村等が、生徒等の受入農家等の決定に関与するもの。

    (2) 受入農家等においては、農林漁業体験、調理、及び農林漁
      
家との団らん等の機会を併せて提供するもの。

    (3) 受領する対価について、宿泊料が含まれていないこと。

    (4) 営利を目的としないこと。

◇ 市町村等:
   次のいずれかに該当するものをいう。

   (1) 市町村、市町村が主たる構成員となっている団体で、地域
      振
興又は農林漁業振興を目的としているもの。

   第3 受入人数
     1回の受入れにおける1受入農家等あたりの人数は,指導者の人数
     や
作業内容によって生徒等の安全の確保が十分にできる範囲とする。


   第4 食事の提供の制限
     体験学習における生徒等の食事は,生徒等が受入農家等と共同で
     調理するもの又は生徒等が自ら調理するものに限る。

   第5 体験学習の安全確保
     宿泊に供する各部屋からは直接外部に容易に避難できる対策をする。
     また、住宅用火災警報器を設置するほか、住宅用消火器等の設置、
     防炎品の使用など、住宅防火対策に努める。

   第6 市町村等安全対策指導責任者の設置及び役割
      安全対策指導責任者を定め、受入農家等に対して、施設の衛生
      管理及び食品衛生に関する指導その他必要な安全措置を講じる。

   第7 市町村等安全対策講習会
     市町村等は,県など関係機関等の協力を得て、原則として1年に1回
     以上、受入農家等を対象として食品衛生や安全対策講習会を実施
     するものとする。

   第8 事故等への対応
     市町村等及び受入農家等は、事故等の発生に備えて、緊急の連絡
     体制の整備や傷害保険等への加入など事故発生時の対応に万全を
     期するものとする。

   第9 体験学習の提供に伴う対価の受け取り
      受入農家等は,体験学習の提供に伴う対価は、受入農家等と市町
      村等が協議の上、別表2に掲げるところにより算定する。

  別表1
   ◇ 講習内容
        (1) 施設に関する事項
           滞在に供する室、浴室、洗面所、便所等の施設設備、管理
           について

   (2) 食品衛生に関する事項
      1)食中毒とその予防について
      2)施設、器具、使用水の衛生管理について
      3)食品の衛生的取扱いについて
      4)調理従事者の衛生管理について

   (3) その他安全対策全般に関する事項

   別表2
   ◇ 体験学習の提供に伴う対価に含むことができるもの
      消耗品費、人件費、収穫農産物等の価格、体験指導にかかる諸
      経費、食事にかかる実費

      備考 :人件費は,農林漁業体験及び調理・食事等の指導に係る
           人件費とする。


   ◇ 体験学習の提供に伴う対価に含むことができないもの
      宿泊のための経費、生徒等の送迎に要する経費
      備考 :寝具賃借料・クリーニング代、光熱水費、室内清掃費

みかん狩り ランチ コロッケ作り
   
   (3)a.の事例:和歌山県 農林水産部  (2006年5月25日施行)
    「和歌山県農家民泊施設等認定制度」とは・・・

     
     http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070900/gt/ninteiseido2.html

 

和歌山県では「農家民泊」への取組を積極的に支援するため、農林漁
業者が営む「農家民泊施設(漁家等を含む)」を認定しています。

 (1) 宿泊定員が概ね5名程度の小規模な宿泊施設であること

 (2) 農林漁業体験メニューが整備され宿泊者に提供できること

 (3) 1回、農家民泊施設の利用実績を県へ報告すること

■ 農家民泊の認定要件は

  (1) 客室面積が33u未満の場合、便所の自家用と客用の共用が
     可能

  (2) 宿泊者用調理場の設置義務が免除。家庭用台所での調理が
     可能

  (3) 食器洗浄器の導入により食器専用洗浄設備(二槽シンク)の
     
整備が省略可

  (4) 衛生環境が確認できれば調理場の床と内壁の耐水性素材によ
    る整備が免除

◎  認定を受けるメリットは

当該市町村に住所を有する者で、経営耕作面積(借地面積を含
む)10a以上を耕作している世帯、又は、過去1年間における農畜
産物の販売金額が15万円以上あった世帯において農業に従事す
るもの。

一般の民宿に比べ、家屋の改修等で初期投資が大幅に軽減でき
ます。

(注)規制緩和の内容は農家民泊施設の衛生環境などによって取
り扱いが大幅に異なりますので、所管するお近くの保健所にご相談
ください。

◎ 認定の手続き

  @ 農家民泊施設等認定に係る申請書類を市町村の窓口へ提出
     し、農家民泊施設等認定書の交付を受けてください

  A 地域の消防組合へ消防法令適合通知交付申請を行い、消防
     法令適合通知書の交付を受けてください。

  B 管轄する保健所へ旅館業営業許可申請(@,Aの写しを添
     付)を行い、営業許可書の交付を受けてください

  C 食事を提供する場合、保健所へ食品衛生法に係る許可申請を
     行い、飲食店営業許可を受ける必要があります。

     ただし、食事を宿泊客と共同で調理すれば許可の申請は必要
     ありません。

■規制緩和のメリット

 ○ 食品衛生法上でのメリット

   1.宿泊者専用調理施設の設置義務が免除され、既存の家庭用
     台所での調理が可能

   2.自動食器洗浄機を設置すれば、食材と食器のそれぞれ専用の
     洗浄設備の設置基準が免除

   3.衛生面の安全性が確認できれば調理場の床と内壁の耐水性
     素材による整備が免除


サツマイモ堀り トラクターで  懇親会後、お別れです

 いずれの場合でも、生徒・学校・父兄の方々が、いかに安全・安心に快適
 に受入をしてもらえるかを心配しています。

 受入側は修学旅行でこられる皆様と関係者の方々がすばらしい思い出に
 浸れるように、その思いに応えられる万全な体制と温かなふれあいの気
 持を持ち続けることを、肝に命じておかなければなりません。